SMAPのラップって、ヤバくないか?
キレッキレのSMAPのラップ
ヤバいと思う。
ワイルドで切なくてエメラルドのように深いSMAPのラップ。
ライブでも人気のラップナンバー Subway Kids も、そんな初期のSMAPの名曲だ。
今宵は、こヤツに降臨してみよう。
ウタジン、ジンジン!
ハッとして、グッ!
ほれっ、ちょいと危険なZINEがデキたぜ。
うたZINE本編『プラットフォームの闇の向こうへ』feat.Subway Kids(SMAP)
ホータイ男のラッパーMasaの登場
ガランとした地下鉄のプラットホーム。ホームの端にポツンと立つ人影が、妙に寂しかった。怪我でもしているのか、腕に白い包帯を幅広に巻いている。
心の中で何かと戦っているようだ。やり場のない苛立ち?希望を持てないやるせなさ…?彼の全身から、とげとげしい空気が伝わって来る。
―突然、ダンスを始めた。激しいラップだ。
タップ踏みながら、足と腕がホームの空気を掻き切っていく。
ポーズが決まった―その瞬間、ガクッと崩れ落ちるように、その場にへたり込んだ。頭を垂れて、しばらくじっとしていたが、やがて、肩を震わせ始めた…。
サブウェイ・キッズの語る近未来の東京
オレはTOKYO生まれのTOKYO育ちの Masa (マーサ)だ。サブウェイのトヨス(豊洲)駅に住んでる。生まれたのも駅の中だ。
オレはサブウェイ・キッズ。
―なぜ、サブウェイの駅なんかに住んでるのかって?
教えてやるよ、お気楽ニッポン人に。
世界一安全なスラム都市TOKYO
西暦2120年。東京オリンピックのバカ騒ぎが終わってちょうど100年。日本の総人口は、ついに6000万人を切った。
気がつけば、ヒューマノイドと外国人と高齢者で溢れる世界一安全なスラム都市TOKYOが完成していた―誰がこんな未来を想像し得ただろう。
乗客のいない地下鉄が走る日
まず人口減少が100年以上も続いていというのは、いいよね?
オリンピックが終わってからは、この辺りの乗降客が激減した。 そして、追い討ちをかけたのが、2030年の7.11東京大震災による液状化。
乗客のいない地下鉄が走る
7.11大震災以後、ベイエリアの都市機能はほとんど壊滅状態だった。 コストをかけてもペイしない復興計画は、宙に浮いたままで、着手の兆しはまったくなし。
経営上の理由をから、東京メトロの部分的な操業停止が相次いだんだ。 そりゃ、そうだ。ほとんど誰も乗ってない地下鉄なんて、走らせるだけ赤字だから。
仕組まれたタダ乗り行政
ここトヨス駅も2070年ぐらいから営業ストップ。
しばらくは、立ち入り禁止で封鎖されていたらしいけど、インフラ再利用の声から、都民のフリースペースとして開放された。
フリースペースなんて、聞こえはいいけど、早い話が路上生活者の収用場所だ。
法律的には、違法滞留者だから、なんの保障もしないし、しなくていい。
錆びたレールに見え透いたルール
公共のライフスペースにも入居できないレベルの人間が、自然と集まり出した。
そこが、どんな世界か、分かるかい?
―お気楽ニッポン人にはわかんないだろうな。
犯人は誰?サブウェイキッズ襲撃事件
サブウェイキッズの誕生
10年もしないうちに、地下鉄構内は移動式シェルターで溢れた。
誰からともなく、「サブウェイ・ビレッジ」と呼ぶようになった地下鉄構内の地下街だ。
昔は、「駅ナカ」って呼ばれる賑やかな商業施設があったらしいね、駅ん中に。
オレが小さい頃、パパから聞いたことがあるよ…。
サブウェイ・ビレッジは、そんな楽しい世界じゃない…。うす暗いアンダーグラウンドだ。
キャリアもWi-Fiもないから、インターネットなんかない。あるのは、非常用水道と電源のみ。
空調が稼働しているから、慣れれば一年中暮らしていける。ちなみにゴキブリとネズミはいない。衛生大国ニッポンだ。
ママのこんなジョークが耳に残ってる―ウチは駅ナカ家族ね!ずっと駅に住んでるんだから(笑)
…ダサいと思うな。サブウェイ・ファミリーしょっ!
オレはサブウェイ・キッズ!
サブウェイ・キッズの抗争勃発!
サブウェイで生まれて、サブウェイで育った―そんな人間が年を追うごとに増えて、いつしかグループができた。
- ツキシマ(月島組)
- トヨス(豊洲組)
- タツミ(辰巳組)
サブウェイ・キッズの三大勢力は、隣接する駅ごとにシマを張っている。というか勢力争いを続けている。
地下水・食料・電源の分配をめぐって、もう何年もいがみ合いをしているんだ。ここ数年は暴力事件も頻発するほど深刻化している。
もちろん、行政は見て見ぬふり。
最後のラップパーティー
あの日、オレたちラップ好きの6人組は、ひさしぶりのラップパーティーで盛り上がっていたんだ。
6人組の名前は SMART !
年代物のターンテーブル、テクニクス(Technics)MK-6がオレたちの宝物!100年前のレジェンドDJと同じタンテでグルーブ!
仲間の Katu (カツゥ)が慣れた手つきで、キュッキュッとスクラッチを送り出す。
Gettin’ Down♪
サーバーからメンバーそれぞれのインナーフォン(※注)にソースが配信される仕掛けだ。(※注)近未来の内耳装着型イヤフォンのこと。
Hangin’ Out♪
暗いトンネルの廃墟が、一瞬で熱いパーティー会場に変身する。タンテの青いLEDがオレの心を照らす…。
Steppin’ Out~♪
200年前のR&Bなのに、オレの魂を揺さぶって止まない。今夜はどこまでも、オレを連れていってくれ!
S h a k e I t U p ♪
音楽があるから、こんな場所でも明日を信じて生きていられるんだ…。今夜はオールナイトだ!
―そう叫んだ瞬間だった。
ハンマー男たちの襲撃
サッと黄色の光が足元を照らしたと思うと、
ガシーン!
とイヤな音がして、いきなり音が止んだ。
手にハンマーを持った人影が、大きく凹んだターンテーブルの前に突っ立っている。
ウソだろ?
何人かの黒い影がばらっと周りになだれ込み、ベンチに置いていた機材をハンマーで叩き壊し始めた!
(〇✕△✕※✕!)
ナニを言ってるか分からない!
聞いたことのない外国語だ。
ターンテーブルを壊したハンマー男は、今度はレコードの山を叩き潰し始めた!
ナニすんだ!
逆上して叫ぶと、思わず腰からジャックナイフを取り出して、身構えた。
奴らだ…。
隣のツキシマか
ダイバの奴らだ。
どっちだ…?!
オレはもう、何が何だかわからなくった…!
やめろー!
思わず、ナイフを振り上げて、ハンマー男に突っかかって行った…。
気配を感じたハンマー男は、振り向きざまにオレに向かって、ハンマーを振り下ろしてきた。
オレは辛うじて半身でかわし、ナイフを黒い影の肩に打ち込んだ…!
それからは、あまり覚えいない・・・
気がつけば、散乱したレコードの上に、Katu が血を流して呻いていて・・・。
自分の腕の痺れるような痛みに、思わず見ると手首まで赤黒く染まっていた。ジャックナイフが3mほど離れたところに落ちているのが目に入った。
壊されたターンテーブルは、死んだようにテーブルの上に置かれていた…。
(完全に破壊された…。オレたち SMART の聖なる場所が…。)
堪えようのない怒りで涙が溢れだした―。
地上生活への夢が果てていく
現実を変えるにはお金が絶対必要
(プラットフォームの地下生活から抜け出したい…)
サブウェイ・キッズなら一度は抱く夢―。
そのためには、まとまったお金が必要だ。ライフスペースための毎月の賃料、最低限の食料費、さまざまな生活雑費…。
なにより仕事だ!毎月安定した収入を確保する必要がある。
いつの世も仕事とお金
だけど、もう一つ必要なものがある。それは、行動する勇気だ。
お金は行動の結果でしかない
お金がハードだとしたら、行動はソフトだ。ハードを生かすも殺すもソフトの力だ。お金をどんなに持っていても、行動しなければ、現状は変わらない。
行動してナンボ。
そんなアタリマエの真実を頭でわかっていても、体は1ミリも動かない。一人で地上の世界へ飛び出していくなんて、正直…、
怖いから。
地上生活なんて、わからない事だらけだし、第一頼る人もいない。仕事だって何ができるかわからない…。
仲間と一緒に行くなら、なんとかなるかも知れないが、SMARTのメンバーもそれぞれ事情を抱えている。結局のところ一人で行くしかない。
キミなら、どうする?
不幸のスパイラルを乗り越える方法
Masa は肩から吊るした薄汚れた三角巾を力なく眺めながら、プラットフォームの端に立っていた。
すぐ横には、トンネルの闇がぽっかりと暗い口を開けている。
あの襲撃事件以来、メンバーの6人は集まらなくなってしまった。―SMART 崩壊。そしてトヨス組全体の反撃の動きと事なかれ主義の対立…。
Masa には、この一連の事実も耐え難い痛みだったが、今は新たな心の闇に怯えていた。
(隣駅にはオレたちの聖なる場所を破壊した人間が住んでいる。トンネルの左も右も、続いているのは暗闇だけ―”光の射す方へ”なんてふざけてる…。)
闇はどこまでも続く
そんなやり場のない思いに胸が一杯になりそうになった時、急にあるラップ・ナンバーのイントロが頭をよぎった…。
No money and so do it.
(金なんてない。だから、やるんだ。)
ハッとした―。
現実←お金←行動←勇気という流れしか頭になかった Masa にとって、一つ乗り越えている言葉だった。
現実←行動←勇気
お金がないなら、すっ飛ばせばいい。この歌詞はジブンにそう教えている。
―なんて素晴らしいアイデアなんだ!
―そうなんだよ!すっ飛ばせばいい!必要なのは100万倍の勇気だけだ。
勇気だけ持って来い。
(そうジブンに教えてくれているんだ…!)
こう思った瞬間、体に電流が走った。そして、そのラッパーに全身全霊で感謝したくなった。
Masa は、突然ダンスを始めた。激しいラップだ。
タップ踏みながら、足と腕がホームの空気を掻き切っていく。
ポーズが決まった―その瞬間、ガクッと崩れ落ちるように、その場にへたり込んだ。
頭を垂れて、しばらくじっとしていたが、やがて、肩を震わせ始めた…。
しばらくすると、ゆっくりと頭(こうべ)を上げて、プラットフォームの闇をじっと見つめた…。
うたZINE『プラットフォームの闇の向こうへ』(終)
うたZINE解説
舞台は近未来2120年の閉塞した東京
廃墟のような地下鉄のプラットホームの端に一人たたずむ少年Masa(歌の主人公)の語る、2120年のスラム都市・TOKYOの閉塞した状況とは?
サブウェイ・キッズの誕生と生活
セイフティーネットの隙間で生まれたサブウェイ・キッズ。明日の見えない生活と繰り返される抗争に耐えながら、唯一の救いをラップに求める仲良し6人組 “SMART”とは?
少年を救ったラップナンバーの歌詞
懸命に夢を探し求める少年Masaに、ラップが教えてくれた意外な人生の処方箋とは?―ラストシーンのMasaの呟きに、現代を生き抜く知恵と勇気をもらおう!
うたZINE概要
SMAPのデビューアルバム『SMAP 001』収録の Subway Kids をフューチャー。近未来の東京を舞台に、廃虚のような地下鉄構内に暮らすサブウェイ・キッズ達の絶望と救済を描く挑戦的な作品。
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