玉置浩二が『メロディー』をリリースした37歳って、青春に最後のお別れをする年齢かも知れません。
目の前には、オジサン一年生の40代が口を開けて待っている…。
振り返ると、青春時代がどんどん遠ざかっていく…。
青春から何かをつかめるとしたら、このタイミングが最後のチャンスです。
あなたも、このメロディーから4つの大切なことをみつけて下さい。
目次
ライナーノーツ
Artist | 玉置浩二 |
Lyricist | 玉置浩二 |
Composer | 玉置浩二 |
Original Release Year | 1996年(平成8年) |
Album | 『CAFE JAPAN』(1996,玉置浩二)
※最終曲 |
Notes | 同名のシングルカットはゴールドディスク。 |
歌の概要
知らず知らずのうちに自分の大切な価値観を忘れてしまった男子が、ふとしたきっかけに青春時代の生き方を思い出し、あまりに真逆の人生を歩んでいる自分に愕然としながらも、当時仲間と唄った歌に再生の希望を託している歌。
歌が生まれた瞬間
ひょんなことから20年ぶりに青春時代を過ごした懐かしい店を訪れたアラフォー男子が、店に置いてあった当時の仲間の寄せ書きを目にしたことをきっかけに、10代の頃と真逆の価値観の人生を歩んでしまった自分気づき、失ってしまった大切な生き方をなんとか忘れないようにしようと、皆で合唱した思い出の歌「ケ・セラ・セラ」を口ずさんだ瞬間に、『メロディー』は生まれた。
10秒でわかる歌詞の意味
同じ高校の演劇同好会の仲間で当時付き合っていた彼女と、高校3年の春に中退して働き始めた自分とは、別々の人生を歩むことになったが、20年ぶりに故郷の街を訪れて、当時の彼女や仲間のことを思い出し、現実の生活に流されて大切な生き方を見失っていた自分を、仲間と涙ながらに合唱した歌のメロディーで優しく慰め励ます歌。
歌詞を深く知る仮想ストーリー
今回の歌物語は、1990年代後半の大阪の下町が舞台です。主人公の回想する時代は、その20年前の1970年代後半となります。
第1章 物語のはじまり
歌の主人公は、内装工事作業員のヒロシ(37歳)ー茶髪に染めたビンのあたりに白髪がすでに二、三本混じっています。
歌の主人公はアラフォー工事作業員
ー社長、天王寺の現場ですけど、お客さんの検収、終わりましたんで。
ヒロシは二つ折りの携帯電話を肩にはさみながら、マルボロ―に火をつけた。
返事が返って来るまでの束の間、フゥと仕事の後の一服をやる。
ーおぉ、そうか、ご苦労はん。全部貼れたか?
ーはい、天井のロールがギリちょんでしたけど、なんとか…。
-そうか。ほな、上がってや。久しぶりやろ、こんな早あがり。
ヘェッ、ヘェッ、ヘェッ、と社長のかすれた笑い声が耳元に聞こえた。
ーおおきにです。お先ィ失礼します。
下卑た笑い声には反応せず、しらっと挨拶だけを返した。
ーおぉ、お疲れさん。
小さく返事をして、パチンと携帯電話をたたんだ。
作業ズボンのポケットにしまいながら、もう一度煙を大きく吐いた。
(しっかり出張手当つけてくれよ…)
小さく呟いて、両手をポッケに突っ込んで、現場を後にした。
20年ぶりの故郷の空は優しかった
ヒロシは、ひょんなことから20年ぶりに故郷の大阪に帰った。
遠方にある現場の突貫工事のため、会社から離れた大阪で出張作業をすることになったのである。
月曜からビジネスホテルに泊まり込み、顧客の検収が終わったのは、金曜日の午後三時。
会社に作業終了の電話連絡をすると、あとは半休をとった月曜の午後まで自由だった。
ひと仕事終えた解放感からか、現場が通っていた高校の近くであることが、今さらながら気になった。
(そういえば、おれの高校の近くや。)
一週間分の疲労感さえ心地よく感じられる、爽やかな秋晴れを見上げたー。
(同窓会も出てへんし、行ってみるか…)
特にあてはなかったが、今の自分に足りないものが、見つかるかも知れないと思った…。
毎日仕事に明け暮れて、夜はビールを飲んで寝てしまう。週末は洗濯と買い物、そしてゲームの自分に…。
第2章 サプライズ!思い出の品を発見した
通ってた高校は、現場から電車で一駅の近さだった。
懐かしい駅の名前を告げる車内のアナウンスが、どこかよそよそしく聞こえる。
プラットフォームに降りたら、そこはかつての青春の街角だった。。
青春の街はVRじゃなかった
最寄り駅の改札口から出た瞬間ー。
ヒロシは「セピア色の卒業写真」が、とつぜん目の前にフルカラーで出現したような妙な臨場感に圧倒された。
(変わってない…!)
高校は大阪のとある下町にあった。
押し寄せる駅前再開発ラッシュからも取り残され、20年前の街並みが少しばかしお化粧直しをしただけで残っていた。
…はしゃいだような気分になるのは、なぜだろう。
左右の店先に視線をさまよわせながら、駅前の小さな商店街を抜けたところにある母校を目指して足を進めた。
思い出のお好み焼き屋を発見
あっ…。
白抜きの「お好み焼き❖てらだ屋」の文字に、足が止まった。
(懐かしぃー)
高校の演劇同好会の打ち合わせも、打ち上げも、ぜんぶここでやった。(まだあったんかー。)
腹も減ってきた頃だ。えんじ色ののれんをかき分けて、ガラガラとおもむろに入ってみた。
ーやってますぅ?
ーいらっしゃい!空いてる席、どうぞ。
店内は見覚えのない小奇麗な白のテーブルで統一されて、当時の面影はなかった。
ヒロシは、入口に近いカウンター席に腰を下ろして、お品書きの中から豚玉とご飯を注文した。
(値段も、あんまし変わってない…)
近所の兄ちゃんの気ままな昼飯タイムが始まった。
20年前の寄せ書きが飾られていた
お好み焼きをご飯もろとも15分で完食して、満ち足りた束の間のシアワセに浸る…。
ようやく店内を見回すゆとりが出たものの、そこは下町のありふれた小さな飲食店だった。
当時の店長も今はいないらしく、少し興ざめな気分になった時、店の片隅にラップで包まれた色紙が立てかけてあるのに気づいた。
(こんな店に芸能人でも来たんかな…?)
近づいて手に取ってみると、それは何と高校の時にヒロシが所属していた演劇同好会の寄せ書きだった…。
えっ?
驚いて、やや日焼けした色紙の上の文字を追いかけた。
(…先輩の追い出し会。。)
そういえば、中退する年の初めに、受験を控えて休部する先輩の追い出し会を開いたことを思い出した。
青春時代の時計がふたたび動き出す
食い入るように寄せ書き人の名前をたどって行くにつれて、次々と懐かしい顔が浮かんで来た。
ぐるっと視線が一周しかけたところに、果たして自分の名前が載っていた。
そして、ピースマークが二つ。
やや小さめのピースマークが横に並んでいる。
そこに、” 弥生 ”の字を見つけた瞬間、ヒロシの中で長い間止まっていた時計が、かすかに動いたー。
第3章 あの歌に込めらた4つの大切なもの
弥生は、当時高校の同じ演劇同好会にいた関係で、一年生の秋ごろから仲良くなって付き合い始めた。
父親がおれへんみたいで、いつも少し寂しそうな顔してたんで、俺の方から声かけたんや…。
彼女を置き去りにした男
俺が高二の春に、オヤジとお金のことで大喧嘩して、それで学校にあんまり行かなくなってからも、毎週のように会ってたな。
このお好み焼き屋にも、何回かメシを喰いに放課後遅く二人で来たこともある。
結局高三になってすぐの頃に学校辞めて、建設関係のアルバイトをするようになった。
しばらく実家でプラプラしてたけど、もっとお金を稼ぎたくなって、会社の先輩の紹介で東京の会社で働くことにしたんや。
それで東京に出て来て、一回お盆かなんかで帰った時に弥生と会ったけど、あんまり話も合わなくて、もう別れよかみたいな感じになって…。
最後、あいつ泣いてた…。
思い出のメロディーが聴こえた
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ヒロシの頭の中で、一気にそんな思い出が噴き出して来た。
仲間と芝居の練習で夜遅くまで文化室のホールで台詞の練習をしたこと。
役作りのことで、議論したり、意気投合したり…。
つかこうへいのどの作品が好きだとか、嫌いだとか。
ミュージカルの場合は、のどが痛くなるまで何十回も歌の練習したり…。
そんで、腹減ったらお好み焼き屋に皆で繰り出して夜まで騒いだりしてたー。
歌があれば幸せ?
僕らにはガリ版刷りの台本しかなかったけれど、春と秋の公演に青春のすべてを賭けていた(オレは、テキトーだったけどな。)
そや、それで『ケ・セラ・セラ』覚えたんや。えぇ歌やなぁーって、公演終わった後でも、皆でこの店の二階で唄ってたな…。
先輩の追い出し会の時に、弥生が急に『ケ・セラ・セラ』歌い出して、それで皆で自然に大合唱になったんや!
自然に大合唱になった!
あのコーラスが心の中から蘇って来て、ヒロシは急に切なくなって目頭が熱くなった。
あんな時間が、自分にあったということが、今にして思えば奇跡や…奇跡や‥。
弥生…お前今、どこで何してんねん…。
最終章 歌がボクらの絆である事実
ーあー、それねー先代の店長から引き継いだやつで、ずっと飾っといてなーと言われててね。その人、もう有名人になってるしねー。
はっとして振り返ると、調理場の方から、そんな言葉が飛んで来た。
ヒロシがあまりじっと見つめているものだから、気にして声をかけてくれたようだ。
ずっと飾っといてな…
(20年間ずっと飾ってあったのか…)
それを聞くと涙が溢れ出した。
ーそれなのに、それなのに、俺はこの20年間一体どこを歩いて来たんや?
親も捨て、彼女も捨て、仲間も捨て、この街も捨て、あの頃のすべての想いを捨てて、一体何をつかもうとしてきたんや?
涙を隠すように背中を丸めて、返事をするフリをするのが精一杯だった。
彼女からのメッセージ
ヒロシは、青春時代の時計が少しずつ心の中で回り始めたのを感じたけれど、今の自分の時計とリズムを合わせることは、到底出来そうもない気がした。
あの時から、大きな何かに流されるように生きて来て、今の自分があるーその事実を否定したり、捨ててしまうことは出来ない…。
ー何かが必要だ。自分の中にある二つの時間をつなぐ何かが…?
ヒロシは、救いを求めるように顔を上げて、もう一度、寄せ書きに目を走らせてみた。
そこに、弥生が答えを出してくれていたー。
先輩へー「ケ・セラ・セラ」を贈ります!!
ケ・セラ・セラ…♪
そっとメロディーを口ずさんでみた。
そうか、これだ…!このメロディーがあればいい…!
ヒロシは目を真っ赤にして何度もうなづいた。
この街にメロディーが流れる理由
今のオレと、あの時の彼女をつないでくれるのは、心の中から聞こえて来るこのメロディーだ。
あの頃の自分と、今の自分をつないでいるのも、このメロディーだ。
このメロディーが流れている限り、またこの街に帰って来れる気がする…。
そう、このメロディーが流れている限り。
…ケ・セラ・セラ、泣かないで。
…ケ・セラ・セラ、また帰って来るから。
(終)
(まとめ)4つの大切なこと
ヒロシが思い出のメロディーから掴んだ4つの大切なことをまとめておきましょう。
- 何もなくても楽しくやるマインド
- 何かに打ち込むという幸せのカタチ
- 共同体の中での自分
- 歌の共有が絆である事
ちなみに、これまでのヒロシの生き方は、以下のような価値観でした。
- サービスやモノが幸せの源泉
- 足りないことは不幸せ
- 個人としての生き方を追求
- 歌は個人の消費財
あなたは、どちらの生き方をしてますか?
おすすめの人
- 人生の目標が見えなくなった人
- 今の生活がどこか物足りない人
- 彼女を幸せにできなかった人
- 一生歌える歌に出会いたい人
メッセージ
新しい価値観と古い価値観は二者択一ではなく、ピラミッド型に構成することがこれからの賢い日本人の生き方であるように思えます。古い価値観を下に据えて、その上に接ぎ木をするように新しい価値観で生活していく。自分を振り返ったり、皆が助け合わなければならないような時、いつでも古い価値観を出動させることができようにしておくーこの歌は、そんな生き方に指針とパワーを与えてくれる歌でしょう。
歌のフォースに栄えあれ!
(ここまでお読みいただきまして有り難うございました。)
コメント
素晴らしい解釈に感動しました。
日本もまだまだ捨てたもんじゃないな
生きる勇気と希望が持てました。
ありがとうございました。感謝致します(合掌)